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バックナンバー 螢光板
604号/2010. 6月号
 

 アンチエイジングという言葉にしばしば出会う。この言葉に出会うたびに何となく違和感を感じている。人は1年の時を経れば1年老化する。生物・生命の世界に「絶対」があるとすればこのこと以外にない。そんな摂理の中でのアンチエイジング。生物としての変化をゆっくりに、あるいは止めようというのか。精神の在りようを言っているのか。容貌のことを言っているのか。「時」に逆らってその代謝や構造を維持しようとする多くの補充療法。美容整形でシワを伸ばすことまでアンチエイジング、かつらの宣伝にまでアンチエイジング。すぐそこに民間療法営業部と民間信仰団体が待っているような気がする。
 恐れることは、ものすごい勢いで高齢化が進む社会にあって、必ず訪れる「老化=エイジング」に対する心の準備をこのアンチエイジングなる言葉は麻酔してしまうのではないかということである。
 臨床の現場にいると、多くの方にこの「エイジング」に対する心の備えが失われており、それに端を発するトラブルがいかに多いかを実感する。無限に拡大する国民の健康願望は、実は現代日本の医療の問題の根幹であり、それはどうもアンチエイジングという表現と隣り合わせのように思われる。いつまでも若くいたい、いつまでも健康でいたいというアンチエイジング願望は、いつの間にか死に対するリアリティの喪失という現象を形づくっている。歳とともに増す見識、経験に裏打ちされた言動、エイジングによってしか得られない美徳、というようなものは間違いなく存在すると思うのだが。



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