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バックナンバー 螢光板
612号/2011. 4月号

 後輩が内科部長を務める病院を訪問した。昔同じ病院にいたが入れ違いで、診療や症例検討会で同席するのは初めてだ。

 良いとはいえぬ立地条件ながらそこは先進的運営と教育で名高い。旧弊な人からはやっかみ半分の批判もあり、実際はどうだろうかと興味津々で行った。

 彼は研修後程なく渡米して修業を重ね、腫瘍内科医として確固たる地位を得てNIHの研究費も取り活躍しており、今般懇願されるまで日本に戻る気はなかったという。

 15年ぶりの再会だがその飄々とした雰囲気と人懐っこい笑顔は昔のままだ。精巣腫瘍の米国人の診察に居合わせたが短時間で要領良く柔和な説明は見事であった。

 症例検討会は、山のようなフィルムを運び出し「シャウカステン」にもたもたかけていた頃とは隔世の感で、全画像と検査所見が瞬時に画面に呼び起され、腫瘍の浸潤さえも時系列で動画で追える。

 しかし私が最も感銘を受けたのは電子環境ではなくて、彼の臨床眼である。

 膨大なデータを一瞬で把握して彼が矢継ぎ早に担当医に言うには「この人、元気?ご飯は食べてる?それならもうワンクールだ」「家は遠い?じゃあすぐ1回帰してあげて」。

 数秒で患者の病状と生活と人柄を把握し、予後を見抜いて方針をてきぱき立てる。若手にはぴんと来なくても、これが出来るまでには年余の猛烈な修錬と試行錯誤と精進が要る。

 良い話のない昨今、稀な清々しい感動だった。わが母校はここに一人の辣腕の臨床医=教育者を輩出し、彼は素知らぬ顔で淡々と練達の診療をし後進を育てている。これ以上の幸せと誇りはない。



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