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バックナンバー 螢光板
614号/2011. 6月号

 3・11後からの政府関係者の会見を聞いて気になる表現として「直ちに影響はない」と「可能性は0ではない」があげられていた。どちらも臨床現場では聞き慣れた言葉だが改めて聞くと違和感が残る。「直ちに影響はない」とは長期的には影響が出るということであるし、「0ではない」とは「事実上0とほぼ同じ」だが厳密には「小さくても可能性は残る」ということであろう。いずれもこれらの表現の裏側には、限定条件下での結論を発表する言い回しを用いて、考えられる限りの事象についてあらかじめ言及しておく思考法が透けて見える。これは「学問」業界内の定石みたいなものである。自分を含めた医療者が臨床上この同じ言葉を用いて誤解を招くことが少ない?のは、特定の個人(患者)条件を丁寧に補足しているからに他ならない。しかし、ひとたび緊急事態となれば個別案件を扱っていた専門家が動員され、さらに公的発言を求められるともなれば、あらゆる可能性について言及しておこうと職務上の保身的態度が加わりやすい。ここに「適切な」助言が不適切な結果を導きやすい土壌がうまれる。さらに始末に悪いのは、専門家としては—自分も含めて—、複雑な事象・事態をできる限り客観的に伝えることが使命であると素朴に信じていることであろう。言葉が軽いといわれる為政者が専門家言葉の本質を瞬時に察知して自分に都合よく引用しているならば、ある意味で言葉使いの達人と言えるだろう。マスコミやネットの安直な表現に流されないために「言葉」への各自の見識が問われているのだろう。



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