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バックナンバー 螢光板
623号/2012. 5月号

 家の近くの大通り、その交差点近くにあったM書店がとうとうコンビニに変貌した。子供の頃、その本屋の入口から一直線に伸びる通路の奥にはおじさんが鎮座し、各通路の左右にある本棚は天井に届く程に思われた。漫画の単行本を本棚から取って読んでいると、そのうち本棚にハタキをパタパタかけながら奥からおじさんがやって来る。夢中になって読んでいる頁の上からハタキをかけられ、見上げてみるとおじさんの怖い顔、という事もあった。その後、ビルになった建物の1階が書店になり、入口にはちょっと個性的な選定で文庫本が並んで、今月売り出しの雑誌が手書きの前垂れを付けて積み上げられていた。インターネットによる購入や大型店舗が増加する中では仕方がないが、とうとうこの店も無くなってしまった。

 駿河台下の神保町にはまだ本屋街の風情が残っている。学生時代、お茶の水を訪れる度、坂下のこの界隈をうろつき古本などを手にとると、ちょっとインテリ風でいい気分だった。更に、街中の薄暗い喫茶店に入り買ったばかりの本を開くと、随分大人になった気がした。完全な自己満足である。飲食店が増え、高層マンションが建ち、街の風景が以前の学生時代と変わっていないといえば嘘になる。しかし今でもそこかしこで学生時代に嗅いだ本や珈琲(そして、安い洋食屋のコロッケやカレーとか)の匂いがする。忙しい毎日、インターネットで自分がほしい本を捜し求め購入するのも方法だが、たまに本屋街をそぞろ歩きをしながら、何かの本と出会う偶然を楽しむのも中々乙だろうな、と思う。



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