バックナンバー 螢光板
645号/2014.7月号

科学の進歩には、積み重ねられて来た「歴史」を正しく理解することと、そこで起こる現象を「想像」する能力が重要である。もっとも想像力が度を越すとSTAP細胞事件のようなファンタジーになってしまう。

製薬企業の絡んだディオバンの臨床研究不正事件が起きた。一件だけかと思っていたら白血病治療薬の臨床研究でも類似の事態が報道され、他にもありそうだという雰囲気である。医薬品に安全性と有効性が求められるのはいうまでもない。そのため臨床研究の科学的手順が整備された。しかし今日に至るまでに悲惨な薬害事件がたびたび起こった。最近我が国ではいろいろな分野で、歴史の重要性の認識が欠如しているように思われる。

医学においても然りで、研究の歴史、今回の話題でいえば医薬品開発に関わる負の歴史が、正しく教育されていたのかと疑問に感じる。また、歴史の教育は受けながらそれを無視するかのような研究者の傲慢さが見え隠れし、その結果がどうなるのかという想像力にも欠けている。再び悲惨な事件を起こさないためにも、また正しい医学研究が行われるためにも、じっくりと歴史を見直さなければならない。

ディオバン事件は単に一部の研究者の問題とみるのではなく、直接患者さんと接している医師が医薬品開発の歴史を再認識する場にしたいものである。朝日新聞7月5日号に小さな記事が載っていた。東京大学医学部の学生が、白血病治療薬の研究などを担当した自校の当事者に説明を求めているという。この小さな流れが、医学・医療の正しい進歩に繋がるか注目したい。



▲ページの上へ